ゲーム理論から見た将棋(1)「振り飛車党相手に初手▲2六歩>▲7六歩の理由」

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勝又先生の将棋講座が面白い

私は、2008年4月から「将棋世界」誌上で再開された勝又清和六段の講座「これならわかる!最新戦法講義」が大好きだ。2006年当時の同講座も良かったし、その内容をまとめた書籍「最新戦法の話」も絶品だった。

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定跡が時系列的・体系的に解説されており、私のような定跡好きにはたまらない。また、「オーディブル(audible)」、「リアクション」、「バックワードフィネス(Backward Finesse。「Finesse」とは「策略」のこと。私はコントラクトブリッジを知らないので、本来の意味は良くわからない)」など、いろいろな戦術用語を将棋にあてはめた解説を試みており、私のような理屈っぽい人間にはたまらない。将棋に詳しくない方々へもお勧めできる(特に理系の方々へ)。ここ10年間の流行の戦型がおさえられます。

ナッシュ均衡」=「指したい戦型」?

ただ、「将棋世界」2008年7月号での上記講座における番外コラム「ナッシュ均衡と序盤の駆け引き」については、「ナッシュ均衡」という用語を誤用しているように見受けられる。
ナッシュ均衡」は「ゲーム理論」の中で用いられる解の概念の一種である。ゲーム理論については昔当ブログでも2005/09/20のエントリー2005/10/10のエントリーで述べたことがある。

上記コラムの主眼は、序盤の指し手によって相手の指せる戦型を削りあう、という点。この中で、「ナッシュ均衡」のことが単に「指したい戦型」と同義になってしまっている。現に、文中の「ナッシュ均衡」のところを「指したい戦型」に置き換えても文意が正常に通る。そして「好きな戦法が指せない(自分にとって最も利得が高い作戦が選べない)」、したがって「ナッシュ均衡が無い」と述べているところがあるが、これは間違い。不満であっても平衡点があれば、その戦型が「ナッシュ均衡」。
誤用でかつ「ナッシュ均衡」という難しそうな用語を用いたことで、コラムが逆にわかりにくくなってしまっていると思う。

序盤戦術において先手/後手の取ることができる作戦と、それらの組み合わせにおけるそれぞれの利得を表にまとめて載せたほうがわかりやすくて良かったかもしれないが、なかなか表にするのは容易ではない。コラムの内容を本格的に表にするには、行と列の要素はもっと必要だから。このことからも、上記コラムでナッシュ均衡という用語を適用することが適していないことがいえると思う。

振り飛車党相手に初手▲2六歩が▲7六歩より勝る理由(2008年6月現在)

タイトルには書ききれなかったが、先手側は居飛車党としている。ゲーム理論の表を用いて簡単に説明できるのは、せいぜいこのくらいだろう。

先手/後手 ゴキゲン中飛車 2手目△3二飛から石田流 △3四歩〜4四歩から普通の振り飛車
初手▲7六歩 50, 50 50, 50(石田流) 60, 40
初手▲2六歩 50, 50 100, 0(3手目▲2五歩) 60, 40

(枠内数字は先手/後手の勝率イメージ)

2008年6月現在、後手番振り飛車で優秀と考えられている戦術は、「ゴキゲン中飛車」、「2手目△3二飛からの(升田式)石田流」くらい(角道を止めない四間飛車、というのも出てきたが割愛)。角道を止める普通の振り飛車は、相手に居飛車穴熊にされると非常に苦しいというのが現在の評価だ。
初手▲7六歩は、ゴキゲン中飛車も2手目△3二飛からの石田流も許してしまう。一方で初手▲2六歩は、2手目△3二飛のほうは封じることができる(3手目▲2五歩で大優勢)。このように、勝率イメージを埋めた上で、表を眺めてみよう。指す前に、評価値を決めて、非協力ゲーム(プレイヤーが提携しないゲーム)としてゲームの戦術を練る。

先手の立場で考えてみる。後手がゴキゲン中飛車か普通の振り飛車を選んでくるとした場合、▲7六歩でも▲2六歩でも同じ。しかし2手目△3二飛を選んでくれば優勢になれる。したがって、相手が2手目△3二飛を選ぶ可能性がある分、▲2六歩を選んでおいたほうが得策。

一応後手の立場でも考えてみる。先手が▲2六歩を選んでくるのが予測がつくので、ゴキゲン中飛車をメインに研究を進めるほうが得策。

馬鹿馬鹿しいほど簡単だけど、表にまとめたほうがすっきりするので書いてみた。詳細手順はばっさり切って載せていませんが。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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