100年インタビュー(ゲスト:羽生四冠)でコンピュータ将棋の話、とその考察

「100年インタビュー − BSオンライン」2008年10月、ゲストに羽生善治名人をむかえたインタビューの中で、コンピュータ将棋に関する話があったようだ。
番組を見ていない私は、本当に将棋ファンそして将棋ブロガーなのか、という自己嫌悪はさておき・・・*1。下記のブログで紹介されている。参考になりました。より詳しくはリンク先からどうぞ。

「今までは、コンピュータを使って将棋を指すといっても、ソフトと指すのでなく、インターネット経由で人間と指していた。今後、ひたすらソフトと指すことで上達する人たちが出てくるが、そういう人がどういう強さを身につけてくるのか、コンピュータのような指し方をするのか、興味がある」
「将棋の研究にコンピュータが使われているが、それはファイル(データベース)を見ているのと同じことで、コンピュータからなにか助言を得ているわけではない。今後、助手としてコンピュータを使うようになるのか、これも興味がある」
「ソフトと指すことで上達する」というのは、「無理だろう」と個人的には思ってたんですが、それも非現実的ではなくなってきている、のでしょうかね。

目次

対戦し続けられるコンピュータ将棋であるための条件

2008/05/24のエントリー「コンピュータ将棋の遺す棋譜は、「不気味の谷現象」のキャズムを超えるか」や、2008/07/01のエントリー「コンピュータ将棋による事前検討支援について」にて、私はコンピュータによる棋譜解析や学習支援について述べているが、「コンピュータと対戦して強くなる」ことについてはあまり考えたことは無かったかもしれない。「無理だろう」とは思わないまでも、「やる気が起こらないし続かない」と思っていたからか。

とにかくコンピュータ将棋は、「真剣に何番でも指したくなるような存在」でなくてはならない。人間相手には「負けたくない」という意識が働くものだが、コンピュータ相手にはあまり勝ちへの執着心が沸かないものだと思う。思い浮かんだポイントは3つ。

  1. 人間らしい対局を心がけ、「不気味の谷」越えを果たすこと
  2. コンピュータ将棋と対戦することに「面白い不確実性」を提供すること
  3. コンピュータ将棋に勝ち続けることに対し、なんらかの報酬を与えること

対局における「不気味の谷」越え

1つ目の「人間らしい対局」とは、例えば以下の通り。

  • 対局中、「次の一手」を秘めたうまい局面に誘導できること(「指導対局」ができること。最強レベル設定時はそんな配慮は要らないが)。何らかの「光明の手筋」を用意する。プロ棋士の方々はこれがとてもうまい。
  • 対局後に、出現した局面を活かした適切な感想戦を与えること
  • 序盤→中盤→終盤戦において、強さが「猿」→「犬」→「狼」とならないこと(終盤になるにつれ異様に強くなっていくのはNG)
  • 腰を落として考えるべき局面や考慮時間の「間」を身に付けられるような時間配分をすること(全部ノータイム指しは不快感を与えてしまう)

「対局後に、出現した局面を活かした適切な感想戦を与えること」は、すなわち棋譜から適切な解説や助言ができることで、これができれば今後、本格的に助手としてコンピュータを使うようになるだろう。

強化学習

2つ目、3つ目は「コンピュータ将棋と対戦することへのモチベーション、やる気」を与え続けるもの。

「適切な文脈における不確実性は、それ自体が脳にとっての報酬になりうる」(中略)
ひらめきのような、正解があらかじめわかっているわけではない学習のメカニズムは、「強化学習」と呼ばれています。何か嬉しいことがあり、脳内報酬物質であるドーパミンが放出された時に、その前に行なわれていた行動が強化されるという学習様式です。

「ひらめき脳」(茂木建一郎 著) P151, P157

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2つ目「面白い不確実性」について、単に「対戦できるコンピュータ棋士を選べる」だけではいずれ飽きられてしまう(それに対し、「将棋倶楽部24」のようなオンライン将棋対局場には代わる代わるいろいろな棋士が現れる)。取り急ぎ私には飽きられないための良いアイデアが思い浮かばない。

3つ目「報酬」について、例えば一定の勝ち数に達したら指定したリアル将棋道場への無料入場券提供だとか、モバゲーのアバターをプレゼントしてみたり。ネット上の別空間への報酬を与えられる仕組みには出来そうな気がする。現状ローカルでスタンドアローンに属する将棋対戦ソフトではあるが、今どきネットに繋がっていないパソコンも珍しいだろう。インストールCDを入れずオンラインダウンロードを客に要求するAppleのような姿勢で問題ないはず。

参考(2008/10/12追記)

もずさんの2006/11/01のエントリーもとても参考になります。

「ソフトと指すことで上達した名人」はいつか誕生するのか

将棋連盟主催の対局以外、人間とは全く指さず、普及活動もせず、ソフトとのみ対戦し、検討に利用し続け、いずれ名人に・・・。そもそも人として間違っており、品格・品位に欠ける。朝青龍どころの騒ぎではないだろう。そんな時代が来ないことを祈ろう。

*1:2008/11/08追記:11/07深夜にNHK総合にて再放送があり、無事観ることができた。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • トラックバックありがとうございます。
    将棋ソフトに対する鋭い分析、大変参考になります。
    将棋ソフトを実際に作ってみますと、やはり物事をコンピュータ側から考えがちになりますので。

  • > hyperion_ymさん
    コメントありがとうございます。
    コンピュータ将棋だけでなく、「人間」の強化学習の仕組み解明も恐ろしく難しい、といった気持ちを込めて書いてみました。
    そしてそういった人間心理を汲み取って、将棋ソフトがキャズム越えを果たして多くの将棋ファンが買うようになったらいいな、と。

    コンピュータ将棋(界)の進化の過程を興味深く見守らさせていただいてます。今後とも皆さん頑張って下さい。

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