「Twitter」とは?
まず、「Twitter」について簡単に紹介しておこう。
Twitterはブログとチャットを足して2で割ったようなシステムを持つ。 各ユーザーは自分専用のサイト(ホーム)を持ち、「What are you doing?(いまなにしてる?)」の質問に対して140文字以内でつぶやきを投稿する。つぶやき一つ一つはブログのエントリに相当し、つぶやきごとに固有のURLが割り当てられる。
ホームには自分のつぶやき以外に、あらかじめ登録した知人など他者のつぶやきもほぼリアルタイムに表示される。このつぶやきの一覧を「タイムライン」と呼ぶ。
実際には、「いまなにしてる」かをそのまま書くユーザーは減ってきており(多分)、現在起きている(生じている、行われている)イベントやニュース記事について、紹介をしたり感想を述べたり、さらには他者のエントリーを再紹介して感想を述べたり、といった使われ方が増えている。もしくは、今やシステム上可能な範囲内でユーザーが各々好きなように使っており、厳密な定義はできないといえる。
GPS将棋ボット、竜王戦対局についてつぶやく
7/19,20はNHK杯のテレビ放送のみで、インターネットオンライン中継は無かった。Twitterのタイムラインを眺めてもつぶやきはあまり見られなかった。Twitterは、もちろんインターネットと親和性の高いサービスなので、オンライン中継がある日は将棋ファンの多くのつぶやきが見られる。
そして迎えた7/21。「第22期竜王戦」決勝トーナメント、羽生善治名人VS片上大輔六段というビッグマッチとそのオンライン中継が行なわれた(その他にも、「朝日杯将棋オープン戦」の中継もいくつか行われていた)。仕事終わりにTwitterを覗いたところ、当然のように皆さんつぶやきが多かった。さらには、「GPS将棋が・・・」といういつもは見られないつぶやきが散見された。
何かと思ったら、なんと「GPS将棋」*3のボット*4がTwitter上に登場していたのだ。
追いかけている対局の実際の指し手と形勢評価値、そしてその局面以下の解析手を淡々とつぶやき続けていた。
例えば、7/22に行われた第50期王位戦第2局・▲木村一基八段VS△深浦康市王位戦の113手目では以下の通り。
[(113) ▲3二銀不成] 306731 △2二飛▲1一飛△2三歩▲同銀上成△同飛▲3四金△7七馬▲同桂△7四桂▲7五玉△8六銀▲同歩△8四銀▲同玉
正直ぶったまげた。前回のエントリー(2009/07/18記)に、私は以下のように書いた。
私の提案は、「ライブ中継局面画面、中継ブログとは独立して、コンピュータによる形勢ライブ解析画面を載せる」というものだ。
前者2つは、これまで通り人間の手により充実させる。新たに追加する後者は、別ウィンドウでコンピュータが勝手に解析・表示し続けているイメージ。そうすれば、興味の無い人(またはコンピュータの読み筋を見ると興ざめしてしまう人)は後者を見なければよい。現在のコンピュータの可能性をウォッチし続けたい人は要注目、というスタンスだ。
7/18に述べたことが、テキストベースで見にくいとはいえ、まさに早速実現されていたわけだ。
私の予測と異なっていたのは、これが中継主催者側が行っているのではなく、GPS開発者の方(下記参照)が有志で作ってくださった、ということ。まさにWeb2.0的(死語?)な、「みんなの協力、ふれあい、支えあい」によるスピード感と共有感覚。この発想が自分にはなかった。お恥ずかしや。
しばらくの間、タイトル戦等で棋譜の公開中継がある場合には twitter (http://twitter.com/gpsshogi/) に、GPS将棋による探索結果が載るようにする予定です。主に開発者の便宜のためのものですが、歴史資料の保存の意味も兼ねて公開するので、興味のある方はご覧ください。
「この試みは実験的なもので、いつまで行うかは未定」とのこと。できるだけ長く続けていただきたいものだ。少なくとも、とりあえず実施されたことに大いに価値がある。大変感謝。
利点
「TwitterにGPS将棋ボット登場」の利点。
第1には、当たり前すぎて気付かれていないことかもしれないが、Twitter上でGPS将棋ボットをフォローしておくだけで、GPS将棋ボットが追いかけている対局の指し手がほぼリアルタイムでわかる。指し手をリアルタイムで見ることは、中継サイトでないとこれまでできなかったことだ(ちなみに、FlashやJavaを実行できないケータイなどでは、中継サイトに行っても棋譜が見られない)。また、人力の有志では限界がある。
第2には、棋力の低いアマチュア将棋ファンにとって観戦サポートになる。最近の公式中継サイトでは、観戦記者の方々や、列席のプロ棋士の方々のご協力で、大変魅力的で充実した解説が行われている。贅沢にも、これにさらにコンピュータ将棋による解析が加わった。
開発者の方は、上記ブログの中で以下のようにも述べている。
将棋の様々な局面に対してGPS将棋が評価した形勢が正しいか誤りかを多くの方に観察していただけると、現在のGPS将棋の棋力や限界がはっきりしてゆくことと思います。(中略)
開発者は評価値と読み筋のみでも楽しめますが、より多くの方にコンピュータ将棋を楽しんでいただくには、計算機の考え方と人間の考え方との接点を増やす方向の技術があると良さそうです。たとえば、囲いの評価、攻めの早さ、逆転の可能性など、人間の考え方に対応する部分はこんな感じと提示するとか。これは簡単なことではないので、今後の研究課題です。
少なくとも現時点で、評価値と読み筋という点で計算機の考え方と人間の考え方との接点が1つ生まれた。興味のある人には、コンピュータ将棋の優れているところ、劣っているところを楽しみながら観戦することもできるようになった。
第3には、その読み筋の「共有」だ。これまでは、コンピュータ将棋を所有している人は自分のPCモニタ上でその読み筋を確認し、ときにそれを掲示板等に投稿し、共有してきた。ただこれにもやはり人力のための限界がある。私は某巨大掲示板サイトをあまり閲覧していないため知らないのだが、すべてをコピーして投稿されているわけではないのではないだろうか。
今回、「Twitter」というある程度メジャーとなってきたコミュニティスペース上で、ほぼリアルタイムでコンピュータ将棋の読み筋を共有でき、観戦者が共通認識を持てるようになったということは、非常に価値がある。
実は上記と似た内容は、すでに「三軒茶屋 別館」管理人様のTwitter上でのつぶやき(下記参照)で指摘されてしまっている。内容がかぶるけど仕方ない(苦笑)。
公式のソフトが読みを披露することによって、その読み筋が一種の基準・共通言語となる。また、ソフトが利用できない環境にある人間でもその読みを知ることができる。また、これまでアングラだったソフトの読み筋との比較が、棋聖戦第5局の梅田観戦記と相俟っていよいよ表に表れてきた。
竜王戦対局後
上記の通り、GPS将棋ボットが初めて追いかけた記念すべき対局、竜王戦▲羽生名人VS△片上六段。結果は羽生名人の勝利で終わった。
ところで、片上六段は棋士ブロガーとして有名(「daichanの小部屋」参照)だが、同時にTwitterユーザーでもある(「shogidaichan (shogidaichan) on Twitter」参照)。対局後、その日の夜に早速つぶやきがあった。
誰にでも 開かれるわけでなし 機会の窓*5
対局者の生の感想を、その日中に読むことができる・・・このスピード感にも改めて感慨を覚えたものである(片上六段はブログの方にもこの後すぐに感想を載せている)。
なんなんだ、この恵まれたWeb観戦環境は。今の将棋ファンは贅沢すぎる。
*1:http://twitter.com/thirdfilerook
*2:「クラスタ」・・・同じ興味や趣味を持ち、それに関連したつぶやきを主に行う人々の集合体。「mixi」における「コミュニティ」のように明確に存在するものではなく、アバウトな定義といえる。各人将棋に限らずいろいろな分野のつぶやきをしているわけで、自然といろいろなクラスタに所属しているものだ。私の場合は、将棋クラスタ純度の高い人をフォローする。または、発言の多くが将棋に関連無くても、将棋関係者の場合はよくフォローする。
*3:「GPS将棋」・・・今年行われた、第19回世界コンピュータ将棋選手権で優勝したコンピュータプログラム。詳しくは「GPSshogi - PukiWiki」などを参照。
*4:「ボット」・・・インターネット上で自動化されたタスクを実行するアプリケーションソフトウェア。一般に単純な繰り返しのタスクをこなし、そのようなタスクに関しては人間が手でやるよりも高速。人間の活動をエミュレーションするのに使われたりする(会話ボットなど)。コンピュータウィルスとしての「ボット」とは別物。詳しくは「インターネットボット - Wikipedia」などを参照。また、その他の各種Twitterボットについては「便利なBOT - TwitterまとめWiki」などを参照。
*5:元ネタは、「第21回将棋ペンクラブ大賞」文芸部門優秀賞を受賞した梅田望夫氏の手記「機会の窓を活かした若き竜王 歴史的シリーズに見る世代論」(第21期竜王戦における渡辺明竜王について述べたもの。将棋世界2009年3月号参照。この期、渡辺竜王は見事羽生名人の挑戦を退け竜王位を防衛するとともに、連続5期達成により永世竜王の称号を獲得)だろう。
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