おことわり
本エントリーのタイトルは、あえてセンセーショナルなものとしています。
実際には、会場はずっと和やかでしたし、関係者の方々も和気あいあいとしていました。
解説の勝又清和六段は、コンピュータ将棋のあまりの強さに「いや〜、開発者の方々は大変なものを作っちゃったね〜」と苦笑いしていました(会場爆笑)が、この言葉が全体の雰囲気を代弁していたといえるでしょう。悲壮感のようなものは特に漂ってはいませんでした。私自身も、勝又先生のご意見に同感です。また、いい意味で帰りの車中ではなんだか呆然としてしまいました。
以上で、閑話休題。
「将棋と科学」に行ってきた
2009/11/04のエントリー「コンピュータ将棋関連の講演会を2つご紹介」で述べた通り、コンピュータ将棋に関連したイベント「将棋と科学」に行ってきた。
午前の部
午前の部では、「将棋と脳」と題し、認知心理学と脳科学の切り口から将棋の熟練度と認知機能、および脳の活動部位などについての研究報告が行われた。
講演を聞き始めてから気付いたのだが、講演を行ったのは理化学研究所のお2人、ということで、本研究は2009/07/11のエントリー「急所を見抜くプロ棋士の「脳力」とは−「第1感 『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」書評」の中で紹介したNHKのテレビ番組「追跡!AtoZ 脳の秘密 未来はどう変わる?」で取り上げられていた研究のことであり、これをより詳細に報告・解説する講演だった。
私個人としては、とりわけ認知心理学の側面からの研究報告を興味深く聴講させていただいた。
午後の部
午後の部では、「コンピュータ将棋の最前線」と題し、はじめに「GPSshogi」開発者の金子氏、および「文殊」開発者の伊藤氏による簡単な技術解説があり、その後に
- 谷崎生磨氏(2008年度学生名人戦準優勝、学生王将戦3位、2009年度学生名人戦3位) VS 『文殊 with Bonanza』
- 稲葉聡氏(2004年、2007年度学生名人、2006年、2007年学生王将優勝、2008年オール学生優勝、2008年アマ名人戦準優勝) VS 『GPS将棋』
の2局が行われた。
棋譜は「『コンピュータ将棋の最前線』中継ページ」を参照いただきたい。
結果は、谷崎氏VS「文殊」の一戦は谷崎氏の勝利、稲葉氏VS「GPS将棋」の一戦はGPS将棋の勝利だった。
だが、谷崎氏の勝利は、普通の勝ち方ではなかった。
詰んでいる局面でダウン
投了図、いや終了図は、文殊の▲2三金に対し谷崎氏が△同玉と取った局面。この局面は、以下▲4五角△同桂▲2四馬!(▲2二飛でも詰む*1)△同竜▲2二飛、以下簡単に詰んでいる。
が、ここで文殊が痛恨のダウン。「後手投了」という読み筋となったときの処理にバグがあり、異常終了してしまったのだ。詳しい説明は、上述した「『コンピュータ将棋の最前線』中継ページ」にあるUSTREAM動画の1時間46分目辺りをお聞きいただきたい。
「良い勝ち方」が求められるコンピュータ将棋
これは、10年前から考えると驚くべきことだ。当時のコンピュータは、自玉が必至状態になったり有効な手が無くなったりすると、水平線効果の弊害による王手ラッシュで手を稼き、精も根も尽き果てたときにようやく投了していた。見苦しく粘るコンピュータを見て、人間は鼻で笑っていたものである。
それがいまや立場は逆転した。まるで、投了せずに見苦しく指し続ける人間にコンピュータが驚いて、あきれて失神してしまったかのようだ。
もちろんこれは笑い話として済ませたい。開発者の方のお話によると、本対局前日のプログラム微調整でうっかりミスをしてしまったようだ。締め切り間際に、とにかく強さを求めて改良しようとする切迫の状況ならではのエピソードといえる。市販されるソフトでは、まずありえないことだろう(というかあってはならない)。
強くなりすぎてしまったコンピュータ将棋。人間に勝つのが当たり前になった時代に、コンピュータ将棋に求められるものはなんだろうか。
将棋においても、まだ隠された能力が人間にはある。そうした可能性をコンピュータと切磋琢磨することで発見すれば、壁を突破できる。羽生さんはそう考えているんだと思うんですね。(梅田)
私も同感だ。
的確な解説を出力して、感想戦のサポートを行う、etc・・・。コンピュータ将棋は、棋士の可能性を引き出すようなツールとして成長・成熟していってほしい。そこまでできて、本当の意味で初めて、コンピュータが人間相手に「良い勝ち方」ができた、といえるのではないだろうか。
*1:▲2二飛以下、△3四玉▲2四馬△4四玉▲3五馬△同玉▲2四飛成△2六玉▲2八飛(▲1七金でも詰む)以下。
コメント