『将棋を世界に広める会』創立15周年記念シンポジウムに行ってきた(2)

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パネル・ディスカッション

(1)の続き。
第1部の羽生名人の講演「海外普及の期待と展望」に続いて、第2部はパネルディスカッション。ディスカッションという題目だったが、パネリスト5名それぞれの各15分くらいの発表が主で、5名で議論する時間は約10分と短かった(時間が押したから?)。
パネリスト5名は、青野照市九段、北尾まどか女流初段、ピノージャック氏、@HIDETCHI氏、そして@takodori氏。それぞれ紹介させていただく。

青野照市九段

現在日本将棋連盟常務理事を務める青野九段。Wikipediaによると、「日本将棋連盟の渉外及び営業広告・出版・販売担当の理事」とのことだ。

海外によく足を運び、現地で将棋を指導してきた実績がある。英語の棋書を出版されたこともある。
青野九段のパネルトーク全文が下記ページに紹介された。

以下、私がメモした箇所を部分的に紹介させていただく。

  • 将棋を学んだ年数は、棋力に比例しない。取った駒を使えるため、奥深く、理詰めはしにくく、感覚的なゲーム。「慣れればすぐ強くなれる。」これがチェスプレーヤーに将棋を勧める「殺し文句」。*1
  • 上海で将棋を大いに普及させた。海外で普及させるといっても、現地で将棋道場を開いて待っているようじゃだめ。学校に盤駒を持って行って勧めた。すると、この学校の生徒達の平均学力が向上した。因果関係は、たぶんある(笑)。「将棋を指すと、学力が向上しますよ。」これをセールストークにして、現地の学校に次々と将棋を普及させた。
  • 新聞不況ということもあり、将棋連盟も減収傾向。連盟としては海外よりもまず国内での利益確保を優先しがちになるのはやむをえない。
  • プロ棋士が海外の将棋コミュニティに参加して指導する、というのは大変効果がある、と実感している(プレーヤー達の、将棋を続けようというモチベーションが非常に向上する)。とても重要なのだが、現状は海外に行ったり他の棋士を派遣したりするのが大変。
    • 筆者注:と青野九段は苦労を述べつつも、現実には数名の棋士を海外に派遣しているので、流石の推進力だ。
  • 「将棋世界」の電子書籍化を進めている。
  • クールジャパン戦略の1つにどうぶつしょうぎなどが入ったら面白い。

完全に余談だが、私の実家は「鷺ノ宮定跡」*2でお馴染みの鷺ノ宮にある。だからというわけでは全くないが、一時期鷺ノ宮定跡を好んで指していた。

北尾まどか女流初段

2008年「どうぶつしょうぎ」を発案し、スマッシュヒット。その後も国内はもちろん海外のボードゲームショーに出展するなど、精力的に活動をしている。どうぶつしょうぎの由来やルール、そして海外での活動内容を、写真を交えて紹介してくれた。

海外のイベントに参加する際には、必ず和服を着て、通常の将棋の盤駒も展示するという。海外の方は、少なからず日本の文化に興味があるために将棋に触れてみよう、と考えるわけで、日本文化つながりの導線として和服を着用していくのはとても自然だしすばらしいアイデアだと思う。また、どうぶつしょうぎをきっかけとして将棋にも興味を持ってもらうよう工夫する、という心掛けにも感心した。
今年も10/21〜24に行われるエッセン・シュピール(in ドイツ)にねこまどブースを出展されるそうだ。大盛況になることをお祈りします。

ピノージャック氏

フランスを中心として、ヨーロッパへの将棋の普及に尽力。元日本チェスチャンピオン。羽生名人のチェスの師匠の1人といってよいだろう。チェスの著書多数。

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  • はじめて将棋を指したとき、相手が盤外の駒を手に取り、そしてそれを盤に打ちつけたのにはびっくりした。想像だにしなかった。相手の日本人の方は、あまりにも明らかなことなので、「取った駒を使える」というルールを事前に説明してくれなかったのだ。
    • 筆者注:それほどまでに、「取った駒を持駒として使う」という将棋の文化は、チェスプレーヤーにとって異質に映ったわけだ。
  • チェスと将棋のトップ同士の交流が深くなり、理解が深くなってきている。「ロシアと日本の詩人同士は容易に理解しあえる」、そんな感じ。柔軟な思考でお互いを理解すべし。

HIDETCHI氏

Youtubeで200本以上の英語の将棋普及ビデオを発表している@HIDETCHIさん。そのトータル再生回数は・・・失念した。パワーポイントを用いて発表していたので、後日公開されると見込み、メモをとらなかった。公開されたらここに追記するつもりだ。
発表の柱は、上述の「Youtube将棋ビデオ」と、主に海外の方々へ向けたオンライン将棋道場「81-Dojo」だ。

「百聞は一見にしかず」、そして「百見は一触にしかず」(今作った)。上述のパワーポイントを待つよりも、サイトに訪れて体験してみるのがよいだろう。
HIDETCHIさん、そして後述のtakodoriさんらとは、昨年から今年にかけて、下記の「最新戦法の話」(勝又清和六段 著)の翻訳プロジェクトでともに活動させていただいた、というのが私が第2部に強い関心があった理由だ(幸い、お2人には春に別件でお会いする機会があった)。

言ってみれば、実はHIDETCHIさんはここ最近だけで「3本柱」を持っていた、ということになる。いやはやなんともすごい行動力だ。
発表の中で、81-Dojoの開発に携わった@tkanekoさん、@daigogさん、@koudayuさん、そして@hirohiigoさんの紹介があった。twitterをきっかけとしたプロジェクトの好例といえるだろう。
これまた余談だが、私は81-Dojoが試験運転のときに、HIDETCHIさんと対局しており、見事トラブル無く一局を指し切れることを確認した(ちなみに私の圧敗だった)。そこで、「初代品質保証担当」としてぜひ私の名前も紹介してほしかった(嘘)。

takodori氏

「将棋を世界に広める会」理事の@takodoriさん。海外の将棋ファン、将棋指しへのインターネットを通じた情報提供や指導は、期間の長さと深さでアマチュアでは群を抜いており、その信頼は非常に厚い、との紹介があった。実際、私はtwitterやブログ「Takodori's Entrance to Shogi World」でその一部を垣間見ており、本当に凄いと感じる。
そのtakodoriさんのお話、いずれ発表資料を資料を公開してくれるだろうと思い、メモはとらなかったが、ざっと以下の通り。

  • 「Shogi」の海外での認知・・・Wikipediaで数十ヶ国語で「Shogi」のページがある。
  • 海外の将棋人口の調査結果紹介
  • 海外の方が将棋を楽しむオンライン環境・・・ポーランド人が運営しているオンラインボードゲーム対局場「PlayOK」、および「81−Dojo」(上述の通り)の紹介
  • 海外で販売されている英語棋書、およびインターネット上で公開されている翻訳棋書の紹介
  • 今後の普及活動についての考察

takodoriさんはとても視野が広い。しかも上述の通り海外の将棋ファンへの草の根活動も行っている。木も森も見えていると感じた。

まとめ

皆さんテーマに個性があって筋が通っていてとても熱かった。エネルギーをもらった気分だ。今後の活動も応援したい。

*1:逆にいえば、チェスに慣れ親しんだプレーヤー達は、その経験を大切にしチェスをプレーし続けたいと思うもので、他のゲームを指してもらうのはなかなか大変。これはもちろん我々将棋指しが他のゲームを始めるケースにもあてはまる。

*2:青野九段が編み出し、米長邦雄現将棋連盟会長が連採して定着した、対振り飛車急戦戦法。戦法名は、2人が鷺ノ宮付近に住んでいたことに由来する。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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