将棋の初形と初手の次善手

将棋初形における究極的な議論(どっちが必勝か)を置いておいて、「プロ棋界の先後の勝率を均等にする」という議論を考えてみよう。この場合、プロ間での初形における勝率が、まさに最高の判断材料になる。というか、それしか判断材料としない。
話は飛ぶが、よくこんな話を耳にする。
「初手の最善手は何か?」
一般的には、▲2六歩や▲7六歩のどちらかだ、という議論がなされる。▲2六歩および▲7六歩それぞれの勝率は、「初手スペシャル」によると、初手▲2六歩が0.55くらい、▲7六歩が0.53といったところか。どちらも先手の勝率が高い。
仮に上記2手が最善手と2番目の最善手としよう。では、これらに続く、
「初手の次善手」
はなんだろう。このような議論は全然なされていないのではないだろうか。ここで一例として、「初手▲1六歩」について考えてみたい。同様に「初手スペシャル」によると、初手▲1六歩の先手勝率は0.524とのことである。意外に高い。だが、それでもこの初手が主流とならないのは、上記2手のほうが優秀とプロ間で考えられているからであろう。サンプル数が少ないので、初手▲1六歩の勝率が、正当な評価に値する数字でないのは間違いない。初手▲2六歩や▲7六歩のほうが勝るというプロの感覚が正しいとすると、初手▲1六歩の勝率は初手▲7六歩の勝率0.53よりも下、ということになる。
逆に、初手▲1六歩と突いた局面で、後手の勝率はどうなるか。これは、将棋の初形を△9四歩と突いた形(図参照)にし、手前側から対局を始めたときの先手の勝率を考えることと等価である。この△9四歩をとがめる構想があるかといったら、おそらくない。相振りに持ち込んで、9筋からスズメ刺しにするくらいか(相当微妙)。アマチュアの感覚でもプロの感覚でも、△9四歩型は△9三歩型より得と見るはずで、図から対局を始めた場合の後手の勝率は、通常の将棋における後手の勝率よりも上がると考えられる(あくまでも推定だが)。ということは、図の局面を初形として将棋を始めた場合、先手側の勝率は、通常の将棋における先手の最大推定勝率0.55を上回ることはない。すなわち元に戻って、初手▲1六歩の場合の後手の勝率は、0.45を下回ることはない。
まとめると、図のように初形を△9四歩の形にすると、通常の将棋よりも先後の勝率の差が均等になると推測される。通常将棋では、よっぽど後手番の秘策でもない限りプロは先手番を取ることを願う。だが、初形に△9四歩を入れた将棋においてはどうだろう。どちらを好むか、案外難しいのではないかと思う。
再度念を押しておくが、以上の話は、究極的な局面良し悪しを判断材料としない、あくまでも人間感覚の、人間の将棋の勝率を元にした議論である。なぜ初形を変化させるにあたり、△9四歩といじったかなどについては、次回に続く(たいした理由ではないが)。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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