勝負手


将棋世界」2005年5月号の「将棋カウンセリング」コーナーで、「勝負手」について取り上げられている。「将棋ガイドブック」によれば、「勝負手」の定義は

勝負手・・・形勢が不利のときに、あえて用いる非常手段。功を奏すれば逆転が期待できる。

とのこと。
ただし、「勝負手」という用語は形勢不利のときにのみ用いられているとは限らないのが現実だ。この用語は、その対局を述べている人間(観戦者や、自戦記であれば対局者自身)が形勢判断付かない場合にも平気で用いられている。本当は優勢の局面で、意外ではあるけれでも(本人は意外だと思っていても)優勢を保つ一手を放ったに過ぎないこともあるのだ。
また、最近よく見かける「序盤の勝負手」という言葉(以前は見かけなかったような気がする)は、ほぼ間違いなく「書き手(指し手)にとって形勢不明な局面における、意外な一手」に対して用いられている。
ちなみに、読みきっている人間にとっては、「勝負手」など存在しない。読みきっていない人間が意外と感じる一手は、読みきっている人間にとっては普通の一手に過ぎない。また、対局者の強さに信頼を持てないと、「勝負手」という言葉は用いられない。手に意図を感じないからだ。初心者同士の対局を見ていて、勝負手と感じる手はあるだろうか。
はじめに戻って、「将棋カウンセリング」コーナーで取り上げられていたのが上図。ここで自陣の金取りを受けずに▲6二歩!と打ったのが「勝負手」で、△6八竜ならそこで▲7八金。本譜は▲6二歩以下△7二金▲6一歩成△同玉に▲5七角で逆転、と述べられている。
しかし、▲6二歩に対する後手の最善手(優勢を維持する一手)が述べられていない。これでは、「勝負手」の解説になっていない。・・・かくして、「そもそも上図は先手有利であり、▲6二歩は優勢を維持する一手に過ぎないのではないか?」という疑問を残したままこのカウンセリングは終わるのであった・・・

追記:まぁ人間の棋力不足、勘違いをとがめて「用法が間違っている」と言っていたらきりが無いのだが。極端に言えば、悪手であるにもかかわらず「好手」と述べていたり、その逆もまたしかりである。また、プロの将棋の観戦記でも平気で用いられる「こう進めばまだまだ難しい将棋、形勢不明」などの記述。将棋の神様はこれらを読んで微笑んでいるのだろう。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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