ソーシャル翻訳とコンテンツの関係

「みんなで丸ごと英訳」プロジェクトに関連して、興味深い記事の紹介と、所感を少し。

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TEDのオープン・トランスレーション

米国では、Technology、Entertainment、Designの頂点を極める者たちのカンファレンス「TEDカンファレンス」が、毎年春に開催されている。

1984年の第1回ではAppleMacintoshを披露した。以来、Bill Gates氏、Bill Clinton元大統領、Al Gore元副大統領、DNAの二重螺旋構造の共同発見者James D. Watson氏、クォーク理論のMurray Gell-Mann氏、Billy Graham牧師、U2のBonoなどの著名人から、GoogleLarry Page氏とSergey Brin氏やWikipediaJimmy Wales氏のような新進の起業家まで、数多くの話題の人物がスピーチやデモを行ってきた。

TEDは、イベント「TED Talks」のビデオを無料公開している。そして、「TED Open Translation Project」として、ボランティアによるTED Talksの英語字幕が各国語に翻訳されている。

問題は「どのようにしてボランティア翻訳者の参加を得るか?」だ。
ボランティア翻訳者が協力する最も大きな理由は「興味」だろう。自分が興味を持った情報を、自国語を話す人たちに紹介したくて自分の時間を費やす。つまりソーシャル・トランスレーションにおいては、翻訳者が自分で翻訳するコンテンツを選択できるのが重要なポイントになる。(中略)
第2のメリットはクレジットだ。商業翻訳では翻訳者の名前が表に出てくるケースは少ないが、ソーシャル・トランスレーションでは翻訳者やレビュワーの名前が明記されるのが通常だ。TED Talksでは各ビデオの説明に記載しているのに加えて、ボランティア翻訳者を紹介するページを用意している。

英語のネイティブに、将棋の書籍に興味を持ってもらって翻訳する気にさせるためには、もちろん将棋に興味を持ってもらう必要がある。そのための1つの手が、英語の将棋書籍を普及させること・・・。なんだか「鶏と卵」みたいな議論だ。
これを打破する1つの解が、「とにかく翻訳して公開してみる」ということ。この意味でも、「みんなで丸ごと英訳」プロジェクトはとても有意義な試みだと思う。

日本語の原著があれば・・・?

TEDのオープントランスレーションのよいところは、ベースとなる(英語の)コンテンツが、動画という形で公開されていることだ。
その一方で、「シリコンバレーから将棋を観る -羽生善治と現代」のほうは、現時点では、当然のことながら日本語原著は公開されていない。
何を言いたいかと言えば、「書籍の日本語原著が公開されると、ブラッシュアップはもっと進むかも?」、というもの。書籍を発売したばかりのこの時期に原著公開なんてしたら、本当に書籍の文化を根底から覆す破壊的試みだが。

TED Open Translation Projectの翻訳者として協力するための条件は、「2カ国語以上に堪能であること」とされている。一方だけのネイティブだと、翻訳された成果物の誤植訂正はできても、意味やニュアンスを的確に訂正することができないから、ということであろう。そして、「意味やニュアンスを的確に訂正」するには当然のことながら元のコンテンツ、原著が必要となる。
「みんなで丸ごと英訳」プロジェクトにおいては、「書籍を持っている人でないと原文がわからない」というのが障害の1つとなっている。また、手元の書籍と、翻訳をインプットしているPCのモニタ間で視線を往復させながら翻訳作業を行うのは、これを生業として慣れているプロの翻訳家*1以外にとっては、余計な労力となっているかもしれない。

Googleがソーシャル翻訳に取り組んだら

以上のようなことを考えていたら、「Googleがソーシャル翻訳に取り組んだら、とんでもないことが起こるのかな」という考えに至った。
そう、「Google ブック検索」に、ソーシャル翻訳編集が簡単に行えるプラットフォームが統合されたら面白そうだな、ということだ。

ソーシャル翻訳は、今は

TED Talks以前からソーシャル・トランスレーションは存在したものの、まだ活用例は少ない。

という状況。この領域を、近い将来Googleが支配することになるかもしれない。

日本発の最「凶」コンテンツ?

ソーシャル翻訳の最たる「悪しき」例が、以下の動画のような例だろうか。
最近Youtubeのトップページを見ていたら、これが載っていた。

雑誌の発売日に、である。数多くの関連動画があり、1話あたりの再生回数は軽く1万を超える。
載っているのは、この漫画に限らない。
正直びっくりした。動画サイトはこんなひどいことになっているのか・・・。
悪しき例ではあるが、そのモチベーションにだけは感心する。

*1:もしくは、プロの翻訳家は原文をデータとして与えられていて、モニタ上で確認しているのだろうか?

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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