ゲーム理論から見た将棋(3)「08年度公式戦で、初めて後手勝ち越し」

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後手勝ち越し

本年度は、まさかの「後手勝ち越し」という現象が起こった。

将棋の2008年度の公式戦は、後手番が勝ち越した。日本将棋連盟が1967年度に統計を取り始めて以来、初めてのケース。主導権を取りやすい先手番が少し有利という状況が40年余り続いてきたが、この1年は逆の結果が出た。(中略)
羽生善治名人は「角道を止めないゴキゲン中飛車など、近年は後手番の作戦の幅が広がった。棋士が序盤で工夫を重ねてきたことが勝率アップにつながったのでは」と話している。

最終的に5割2厘(「2分」ではない)というほぼ互角の成績だったようだ。

後手番勝ち越しは戦術の拡散化が一因と思います。将棋は先手が有利なのはもちろんなのですが、その差を埋める努力をいままで以上に棋士が必死に考えた結果という気がしています。その手段の一つとしての、「球種の多さ」すなわち拡散化です。

これら「理由の説明」は、説明になっているようであまりなっていない。個人的にはもっと具体的に説明を付けたくなってしまう。

先手勝率が下がった理由

今年度1年間、「将棋世界」誌やネット上で将棋を見てきた上での、私の予想は以下の通り。

  1. 「後手番戦法のお荷物」*1、ノーマル振り飛車(角道を止める振り飛車)の激減。とそれに伴う、ノーマル振り飛車よりも勝率がマシな戦法採用率の増加。
    • もちろん先手番におけるノーマル振り飛車の採用率も同等の割合で下がっただろう。しかし、先手番ノーマル振り飛車はもともと採用率が低いので、先後ともにノーマル振り飛車の採用率が減るという現象は、後手番の勝率上昇を引き起こす。(ベイズの定理)
  2. 先手番における、より勝率の高い戦法の放棄。
  3. 先手居飛車の勝率ダウン
    • 先手のドル箱「居飛車」(元も子もない戦型だが)の勝率が下がった。具体的には後述。

後手が勝ち越した戦型は?

ただし上記理由だけでは、先手番の勝率が下がることの理由付けにはなっても、先手番と後手番の勝率が五分五分となることまではいえない。どの戦型で、後手の勝率が上回ったのかを予想しなくてはならない。私の予想は以下の通り。

普通、これら戦型で後手の勝率が上回っていたとしても、それでも大して影響は無いとしたものだが、おそらく後者2つの戦型実現率が非常に上がったのではないだろうか。他には、後手番ゴキゲン中飛車も相当後手善戦している?

おそらく、データ詳細がいずれ「将棋世界」や「将棋年間」(序盤4手チャートはとても面白い企画だ)に出ることだろう。あるいはすでに週刊将棋にもある程度のデータが載っているのかもしれないが、私は拝見していない。戦型実現確率、戦型勝率の変化といった私の予想が当たっているかどうか、結果が楽しみだ。

参考:

追記

「平成21年度版 将棋年間」を読んだところ、上記の「後手が勝ち越した戦型予想」は的外れだったようだ。
後手勝ち越しに大きく貢献したのは以下の3つの戦型だった。

一方で、以下の戦型はむしろ先手の勝率のほうが高かった。

  • 相矢倉
  • 先手ゴキゲン中飛車
  • 先手石田流(初手から▲7六歩△3四歩▲7五歩)

参考:

(追記ここまで)

勝率的には、「居飛車VS居飛車」がナッシュ均衡だが

データ上、後手が飛車を振ろうが振るまいが、先手は飛車を振らない、つまり居飛車でいった方が勝率が高い。
また一方、先手が飛車を振ろうが振るまいが、後手はやはり同じく、飛車を振らない、つまり居飛車でいった方が勝率が高い。
つまり、先手・後手が居飛車振り飛車どちらかを選ぶゲームにおいて、勝率上のナッシュ均衡は「居飛車VS居飛車」である。人間が勝率が高い戦法を常に選ぶ合理的な存在であるならば、必ず戦型は「居飛車VS居飛車」となる。
だが実際には、人間はそれほど勝率にこだわらず、自分の好きな戦法を使う。確かに、あくまで勝率は勝率だ。

将棋の神様が結論を下したら?

もし将棋の神様が、「先手居飛車VS後手振り飛車は先手良し。」(とても漠然としているが)とだけ宣言したら?
おそらく人は、それでも飛車を振るだろう。

*1:あくまで勝率ベースで評価し、現状における低い勝率をコミカルに表現してみただけで、見下す気持ちは全く無い。将来的に主流に復帰することは大いにありうる。

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この記事を書いた人

「三間飛車のひとくちメモ」管理人、兼「フラ盤」作者、兼二児のパパ。将棋クエスト四段。
「三間飛車の普及活動を通して将棋ファンの拡大に貢献する」をモットーに、奇をてらわない文章とデザインで記事を書き続けています。

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