「群衆の叡知」
梅田望夫さんのブログのエントリーに、興味深いエピソードが載っていた。
控え室でも「パリでスパゲティ・ナポリタンかあ」と少し話題になったが、ほどなく「2ch」でも「なんで、パリでナポリタン食ってんの」という書き込みがあって軽く盛り上がっていたらしい。控え室では、常に「2ch」をチェックし、指し手や解説棋譜の入力ミスなどの指摘を注視し、中継の質の向上につとめているのだ。「群衆の叡智」の活用だ。
スパゲティの話に特別興味を持ったわけではない(基本的に、私は食事のエピソードに興味は無い。ただし加藤一二三九段のうな重を除く)。中継の際に「2ch」をスタッフが閲覧するのも、過去にそんなエピソードを見たことがあったので特に目新しさを感じたわけでもない。
では何かというと、わざわざ「指し手や解説棋譜の入力ミスなどの指摘」に対して「群衆の叡智」(Wisdom of Crowds)という荘厳な言葉を使うものかぁ、ということだ。
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「みんなの意見」は案外正しい | |
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果たして世の中の誰が物事を「正しく判断する」能力を持つのか。誰がどのように重要な意思決定をすべきなのか。「個」を鍛え上げた優れた個人や専門家がその任に当たるべしという常識に、この本(注:上記「The Wisdom Of Crowds」)は挑戦する。「個」が十分に分散していて、しかも多様性と独立性が担保されているとき、そんな無数の「個」の意見を集約するシステムがうまくできれば、集団としての価値判断のほうが正しくなる可能性がある。
本来「群衆の叡知」にはこういう定義があるなかで、今回のケースに用いてしまうにはちょっと敷居が高い用語なのではないか、と。乱用するのは勿体無い。2chに書き込んだ方々も、うれしい反面、「そんなに深く考えてひねり出して書いた内容ではないよ」と恐縮してしまうのではないだろうか。
「群衆の叡智」に代わる、何か堅苦しくないもっとざっくばらんな表現は生まれないものだろうか。「みんなの助言」とか、「みんなの助け合い」とか。・・・まるでセンスが無い。失礼しました。
将棋界における群集の叡知とは
では将棋界における何が「群衆の叡知」となりうるのだろうか。上記引用文を将棋界で考えてみると・・・
実質的にプロ棋士のみが可能な最善手の追求。もし、トップアマ数百人で適当な局面を一斉に検討(読みの方向を細分化し、担当を割り振る)し、検討内容をWikiなどのデータベースで共有していったら、その局面の善悪の解明はプロ棋士よりも早く正確にできるようになるのだろうか?今はこんな試みは行なわれていないが、試してみる価値はあるのかもしれない。
他には、下記のような試みもあるようだ。これこそ創造性・進歩性の高みを目指す「群衆の叡知」の好例といえそうだ。
煙詰とは、初形全駒39枚配置から詰める途中でほとんどの駒が消えて最少の3枚だけの詰上りになる、魔法のような詰将棋である。ほとんどの詰将棋作家には煙詰創作は高嶺の花であるが、最近、煙詰をネット上でリレーで逆算して共同創作しようという動きもでてきた。
2chのスピード感
「2ch」について、少し触れておこう。
私は2chをめったに利用しないのでよくわからないのだが、今回の竜王戦実況中継中、様々な意見・情報交換が行なわれていたのだろう。
2008/09/29のエントリー「将棋界のブロゴスフィアってどんな構造になっているのだろう?」に対するtakodoriさんのコメントがとても参考になったので、ここで改めて紹介させていただきます。
日本の将棋界のブログスフィアについて考えるとき、2ちゃんねるの存在てどう位置づけたらいいのかなって思います。王座戦の第3局の開始から終局までで、6スレッド立てられてました。コミュニケーションの量からいうと、2ちゃんねるが圧倒的で、以下ブログ > mixi > twitter の順になりますし、2ちゃんねるからは、善悪は別として棋譜貼りスレッドが棋譜でーたべーすへの棋譜供給源になるなど、具体的な成果物も生まれています。ブログって、畢竟、ただの書き散らしにすぎないのではないか、と鬱に入ることもあるし、いやいや、もっと可能性があるはずと妙に楽観的な気分になるときもあります。
私自身は上記コメントへの返答で述べた通り楽観派なのだが、今回の2chの件を見て、そのスピード感、リアルタイム感、そして多人数で補完しあう情報量には少なからず嫉妬を覚えた。とはいえ楽観的なところは変わらない。まぁいろいろなコミュニティやネットワークがあっていいと思う。将棋ファン−もっと広げていえば人間−はたくさんいるのだし、並列・共存して成り立っていくだろう。(「とはいってもユーザーは有限だよ・・・」と、パイを食いあって勝負している運営者の方々は気が気でないと思うが。)
各種コミュニティサイトの比較
2chに触れたついでに、簡単にまとめておこう。コミュニティの分類要素として、3つくらいに絞れるのではないかと思う。
- 匿名性・・・匿名(Anonymous)/ID付/実名 このうち、日本では実質的に実名コミュニティは無いといえるので「実名」は無視する。
- リアルタイム性・・・短文・更新頻度高/長文・更新頻度低
- ネットワーク性・・・SNS/USNS/個人 USNSという名称は今作った造語。「UnSocial Networking Site」。すなわち「2ch」のこと。一般には「巨大掲示板」とか呼ばれているが、今風に呼ぶなら「USNS」になるのではないだろうか。
メジャーといえそうなサービスを、これら要素でテーブル分けしてまとめてみた。どのサービスも、使い方次第でどの領域へも入りうるといえそうなので、代表的な領域にのみ位置付けしている。
短文・更新頻度高 | 長文・更新頻度低 | |
匿名 | 2ch(USNS) | 匿名ブログ(個人) |
ID制 | twitter(SNS) | ブログ(個人)、mixi(SNS) |
匿名性は、発言に責任が問われない(と考えられがちな)ので、使う人はどんどん使う。ただし信頼性の問題で、使わない人は徹底的に使わない。そんなイメージを私は持っている。
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