最近の音楽業界
近年音楽業界が様変わりしていることは、消費者の立場としておおいに実感するところであろう。
- CDが売れなくなった。
- オンライン有料配信(「iTunes」や各種着うたサイト)の売り上げ規模が大きくなった(参考:『米アップル「iTunes」、音楽販売でウォルマート抜き全米首位に | Reuters』)。
- 違法P2Pネットワーク(「WinMX」、「Winny」など)の規模は小さくなった(「Napster」は合法サイトとして復活)ものの、無料動画サイトに新曲やPV(プロモーションビデオ)などが氾濫。むしろ違法P2P時代より悪化?
これから先の方向性として、音楽業界がオンライン有料配信事業を強化し、また、音楽著作権者と動画サイトとの間で著作権問題をクリアにする契約が進んでいくのは間違いない。
New York Times紙の報道によると、着信音など「iPhone」の音楽コンテンツを増やすため、Appleが複数の大手のレコード会社と交渉中だという。
New York Times紙は、音楽業界の中心にいる人物とする数人の言葉を匿名で引用し、交渉は「非常に活発に」行われているが、最終的な契約を締結するところまでには至っていないと報じている。
日本音楽著作権協会(JASRAC)は10月30日、ニワンゴが運営する「ニコニコ動画」と、米Google傘下の「YouTube」上で使用されている JASRAC管理楽曲の利用料を、それぞれの運営企業から支払ってもらう契約締結に向けて協議に入ったことを明らかにした。年内にも暫定的な契約を結ぶ予定だ。
また、別の方向性として、Live(ライブ。生放送、生中継)に力を入れる、というビジネスモデルも存在する。例えば、言わずと知れた「マドンナ」の場合は下記の通り。
マドンナのマネジメントを担当するある人物は「昔はアルバムを売るためにツアーをやったけど、いまはライブを売るためにアルバムを出すんだよ」と語っている。
米eBay傘下のイベントチケット転売サイトStubHubは5月8日、英国を皮切りに世界各国を巡るマドンナのコンサートツアー「STICKY & SWEET TOUR」において、北米ツアーの公認チケットサイトとなったことを明らかにした。StubHubは、スポーツやコンサート、演劇などさまざまなイベントのチケットを、ファン同士が売買できるサイト。
チケットにマージンを付けて売ったり、オークション会場を提供し「場代」を得る、ということだろうか。これをちゃんとビジネスモデルにしているところがすごい。
棋譜がタダで手に入る時代 - 将棋界の場合は?
多くのプロ棋戦の棋譜がインターネット上で無料で手に入ってしまうことは、今や多くの方がご存知かもしれない(ただし基本的に解説は付いていない)。巨大な棋譜保管サイトも存在する。グレーな存在だと思うので、ここにリンクを載せるのは控えておく。このようなサイトは、数年前まではWeb検索で下位に沈んでいたのだが、今ではトップクラスに位置するようになってしまった。日本将棋連盟など将棋関係者の方々は当然お気付きなのだろうが、特に対策が打たれていないように感じる。
まだ問題視されていないからなのだろうか。たしかに個人的感想では、棋譜単独ではあまり価値が理解できず、解説が付かないとその凄さが感じられない。「将棋年鑑」や、「谷川浩司全集」、「永久保存版 羽生vs佐藤全局集」などの特定棋士の棋譜集の売り上げが、近年どのように推移しているのか私は知らないが、「棋譜の流出」が売り上げに与える影響は小さいのかもしれない。
将棋年鑑 (平成18年版) | |
日本将棋連盟 2006-08 売り上げランキング : 497324 by G-Tools |
新・谷川浩司全集〈4(平成15年度版)〉 | |
毎日コミュニケーションズ 2005-04 売り上げランキング : 578063 おすすめ平均 |
永久保存版 羽生vs佐藤全局集 | |
日本将棋連盟書籍
日本将棋連盟 2006-09 おすすめ平均 |
コンピュータによる恩恵
ただしこれから先、強力なコンピュータ将棋がより手に入れやすくなり、さらにそのソフトに優秀な棋譜解析機能が付いていたら、人力の解説は不要になるだろう。そうなったとき、棋譜集は売れるのだろうか。
さらに、最近勝又清和六段が連載しているような、定跡を時系列に沿って体系的にまとめて直感的に可視化できるようにするアプローチは、大量の棋譜データベース、棋譜解析アルゴリズム、さらには強力な棋譜検索機能を持ったコンピュータによって、自動的に実行可能になるだろう。そのとき、定跡書は売れるのだろうか。
・・・と、はじめはこれらを将棋界のビジネス上ネガティブな方向で考えていたのだが、考えすぎか。実現するのは十数年先だろうし、そのときにはIT業界を取り巻く技術も環境も激変しているだろう。(コンピュータ将棋がトッププロを追い抜き、それどころじゃなくなっているかもしれないし。)
対局のライブ中継を進化させてほしい
日本将棋連盟の最大の収入は、やはり棋戦の新聞連載等のスポンサー料なのだろうか。いくつかの棋戦でタイトル戦をWeb上で無料中継できているのは、Webサイトの広告料のおかげ?
将棋ファンとしてはもちろん無料のほうがうれしいのだけれど、ファンサービスが過ぎるかな、とも感じる。「マドンナモデル」を見習って、将棋界も「ライブ」を重視したビジネスをもっと積極的に進めたほうがよいのではないかと考える。大盤解説についてはここでは触れない。Web上のオンライン中継についてだけ、将来的に実現してほしい建設的な意見を列挙しておこう。単に有料化するだけではファンは納得しないと思うので。
7大タイトル戦+αの中でパック販売
権利関係をクリアにして、7大タイトル戦+αの中でパック販売する。2棋戦申し込むと割引、etc・・・。
年額コースでなく、従量制も設ける
お気に入りの棋士だけを追いかけるファンも多いと思うので、タイトル戦限定だったり1局ごと(!)だったり短期でも申し込めるようにする。
「ライブブログ」を採用
そのうち普及するだろう。ブログに自動更新機能+携帯からの投稿機能+αが付いたもの。
プラットフォームはAjaxベースで、コンテンツを追加する端からページが自動的に更新される仕組みになっている。(中略)こりゃWordPress(注:ブログなどに用いられる、CMSツールのこと。日本では「Movable Type」のほうが有名。私もいずれ「三間飛車のひとくちメモ」にWordPressを適用予定)にタイプして保存ボタン押し続けて読者に「更新ボタン押し続けろ」と強制するより絶対こっちの方がいい。 ライブブログ見ている人も、これならページを再読み取りしなくても自動的に更新されるんだ。(中略)もうひとつナイスな機能は、気になる文章・写真は電話(その他どこでもいいが)からメール送信できるところで、送ったコンテンツはメール本文に直接出てくる。
対局のライブ中継にぴったりだと思う。
コンピュータ将棋による形勢判断
ライブ中継局面画面や中継ブログだけでなく、時の最強コンピュータ(もちろんコンピュータ将棋選手権仕様の最強スペック)による形勢ライブ解析画面も載せる。
対局場の映像ライブ配信(2008/06/29追記)
対局場のライブ映像配信は、需要があるのかわからないという先入観からか、私のアイデアになかったのだが、LPSAのネット中継ですでに行なわれているとのこと。すごい。
参考:「将棋の海外伝播などについてのブログ: ビデオ画像と盤面再生を両方開けて将棋を楽しめる時代」
言うは易し、行なうは難し
関係者の方々も、当然構想としては持っておられるのだろう。恐れ多くも、自分への覚え書きの意味も込めて、書き残しておきます。
コメント
コメント一覧 (2件)
マドンナモデルとするなら、その前提として、プロ棋士の紹介、露出、知名度をあげるべきです。
コンピューター将棋が単純な読みの深さ(強さ)を先鋭化させていくのはハードウェアリソースの進化からして予想範囲内だと思います。
ではなく、人が指していることに価値をつける、姿、そこに至る経緯(各棋戦の予選とか説明ないですし)に興味を抱けるようにする。
まずはプロ棋士の先生方はいろいろとずば抜ける必要があるのでは。橋本七段はそれを意識されていると思います。
> おさーん さん
するどいご意見ありがとうございます。特に各棋戦の予選の魅力アップ改革に大賛成です。
最近各種メディアで、将棋界のしきたりをモチーフにしたコンテンツの露出が増えていると思いますので、これらにうまく「プロ棋士個人」も乗っかっていける仕組みが期待されます。