NO SANGEN, NO SHOGI.
もう2ヶ月前の話になるが、2009年4月、「戸辺流相振りなんでも三間飛車」が発売された。著者は、そのタイトル名の通り戸辺誠五段だ。
相振り飛車のご意見番・鈴木大介八段を筆頭に、「相振り飛車戦では向かい飛車に構えるのが最善」という風潮が強そうなこのご時世、「三間飛車で行こう」という戸辺五段の本書は、生粋の三間飛車党にとってはなんとも心強い必読書といえる。
目次と内容紹介文は以下の通り。
目次
序章 相振りなんでも三間飛車の概要
第1章 先手三間飛車対後手向かい飛車
第2章 相三間飛車の攻防
第3章 後手三間飛車対先手向かい飛車
第4章 後手三間飛車対先手新向かい飛車
第5章 実戦編内容紹介
本書は三間飛車一本で戦う相振り飛車の戦術書です。
人気の高い向かい飛車を相手に、シンプルかつ攻撃的な駒組みで主導権を握ります。後手番のときは穴熊に組み、工夫の4四銀型で金無双からの速攻を封じたり、意表の飛車転回を見せたりと、著者の最新研究手順がぎっしり詰まっています。
戸辺流なんでも三間飛車は、すぐに指せて、なおかつ楽しい戦法です。
戸辺五段ご本人のブログでのコメントも紹介しておこう。
読む側の立場から考えて「なるべく分かりやすく」を心掛けました。
だから難しくはないはずです。でも、実用性とパンチ力はかなりのもの。
アマ二段くらいの方から奨励会二段くらいまで幅広く使えるでしょう。
あ、私も使っていますからプロでも十分通用しますね(笑)
「戸辺流」の冠は、嬉しいですがやはりちょっと照れます
戸辺流の真骨頂
「第1章 先手三間飛車対後手向かい飛車」と「第2章 相三間飛車の攻防」は、先手三間飛車側を良くする構想を披露しているが、これらは必読とはいえ比較的普通の内容ともいえる。
戸辺流の真骨頂は、なんといっても「第3章 後手三間飛車対先手向かい飛車」だろう。もちろん後手三間飛車側を良くする構想だが、その構想が斬新だ。まずは第1図。
もし貴方が後手の陣形を第一感「コリ形」と感じたとしても、その感覚は決して間違っていないと思う。研究していなければ、まず指せない形であろう。
3筋の歩を交換し3二に引いた後(なぜ3四でなく下に引くかは後述する)、左銀が4二〜3三〜4四銀と上がっている。途中の△3三銀は相当指しにくい。飛車と角の利きをいっぺんに遮断しているからだ。そして最後に△3三角。飛車の縦の利きを再度消してしまっていて、これも指しにくい。3筋歩交換後、3四に飛車を引いている形であれば自然だが。
なお、3四に飛車を引いた形における似た手順は、「相振り飛車のひとくちメモ PAGE1 MEMO1:先手左銀進出型」で以前紹介したことがある。
5筋、6筋をからめて形をほぐす
このコリ形を解消するのが、以下の構想だ。
第1図以下の指し手
▲9六歩 △6一金 ▲9五歩 △7一金
▲7六銀 △6二飛 ▲1六歩 △6四歩
▲同 歩 △5五銀 ▲6八角 △6四飛
▲6五歩 △3四飛 (第2図)
相振り飛車で用いられる穴熊といえば、△7二金・△6二金と金を横並びにするのが一般的だが、戸辺流は金を縦並びにする△7一金・△7二金型。後者の方が固さの面で優れているので常にこちらを選びたいものだが、上部が薄いためなかなか狙えない。
しかし戸辺流には、上部をフォローする手順がある。それが△6二飛と△5五銀。これで6筋を逆襲し、歩を手持ちにして飛車を再度3筋へ。第2図は後手の作戦勝ちだ。
対美濃囲い、対矢倉もバッチリ
第1図では先手が金無双に囲っていて、最近ではあまりお目にかかれないかもしれない。これに対して上記のようにうまくいってもなんだかな、とお思いかもしれない。でも大丈夫。対美濃囲い、対矢倉でも、見事な戸辺流のバリエーションが披露されている。
そして「第4章 後手三間飛車対先手新向かい飛車」では、「先手新向かい飛車」として先手が左銀の動きを保留して飛車の展開と囲いを真っ先に進めてきた形に対する構想を紹介している。最後の「第5章 実戦編」では、文字通り実戦的な手順を学ぶことができる。
本書を持っていないと、本構想はなかなか思いもよらない。相手の知らない形で、自分の土俵で戦えることだろう。三間飛車党の方々だけでなく、全振り飛車党の皆さんにお勧めできる面白い戦術書だと思う。もっとも、相手にも読まれたら作戦がバレちゃいますけどね。
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